■審査概要
・学生の口頭発表は9件,ポスター発表は23件の応募がありました。
・「新規性」「論理性」「表現力」「質疑応答」の4点について審査員8名(口頭発表4名,ポスター発表4名)による審査を行いました。
口頭発表
■全体的な講評
今年度の口頭発表は昨年度よりもさらに発表演題数が増え,計12題(うち9題が学生)の発表となり,2会場での開催となりました。内容についても例年以上に多様でユニークな研究が多いと感じられました。各会場ではそれぞれ活発な議論が行われ,発表された方,聴講された方,双方にとって有益な機会になったかと思います。今年度は突出した研究発表が見当たらなかったことから優秀賞の該当者はいませんでしたが,今後,研究が深化していけば,北海道だけでなく,さまざまな地域での課題解決につながるであろう2件の研究に奨励賞を授与することとしました。
・口頭発表奨励賞(2件)
小杉 海空斗(室蘭工業大学大学院工学研究科),市村 恒士
「地方都市における地価変動の観点から見た町内会の活動に関する研究」
人口流出や減少が課題の地方都市において,町内会活動と地価変動の関係を悉皆調査で定量的に分析した点が評価されました。地域コミュニティの維持に向けた活動の場としてのオープンスペースの役割やその持続可能性を考える上でも重要な研究であると考えられます。質疑の際にも指摘された,会の中心的役割以外の住民の意識把握や未回答町内会の分析などの課題はありますが,更なる研究の発展・深化が期待されます。
林 拓志(室蘭工業大学大学院工学研究科),真境名 達哉,市村 恒士
「室蘭市の戸建住宅における高木植栽の実態と居住者の評価」
都市の緑がますます注目されている昨今において,戸建住宅における高木植栽の重要性に着目し,その配置や所有者の評価・維持管理等に関して分析した研究です。樹種判別が行われていないなど,いくつかの問題点があるものの,着眼点に優れ,詳細なデータが取得・分析されている点が高く評価されました。都市の緑の持続可能性を考える上でも重要な知見を含んだ研究であり,今後の更なる研究の発展・深化が期待されます。
ポスター発表
■全体的な講評
今年度は23件のポスター発表があり,その中から優秀賞3件,奨励賞1件の合計4件が選ばれました。優秀賞3件は一定の成果に達しており,また論理性に富み表現力も優れており,特に北海道教育大学函館校の発表は調査の継続による厚みを感じられる内容でした。また室蘭工業大学大学院の「地方都市におけるSIB導入を念頭に入れた都市公園の利活用事業に対する社会的インパクト評価」は難しいテーマであり新しい視点を取り入れた発表でした。奨励賞に挙げた「多様化する価値観に対応する新しい供養方法:自然葬地の提案」は新規性の感じられるテーマであることから今後の研究の深化を期待して奨励賞としました。
・ポスター発表優秀賞(3件)
小杉 海空斗(室蘭工業大学大学院工学研究科)
「地方都市におけるSIB導入を念頭に入れた都市公園の利活用事業に対する社会的インパクト評価」
地方都市におけるSIB(ソーシャルインパクトボンド)導入を念頭に,都市公園の社会的インパクト評価に必要な知見の整理を試みる研究です。難しくも,重要なテーマに意欲的に取り組み,ロジックモデル等を活用しながら都市公園の多様な価値を可視化しようとする新たな視点が一定程度の成果をもって提示されていること,加えてプレゼンや質疑応答が的確・明快であったことが評価されました。
滝口 晴子(北海道教育大学函館校教育学部国際地域学科),宮崎 夏生,村上 健太郎
「函館平野の神社林林床に生育する春植物とその生育に影響する環境要因に関する研究」
神社林が都市の身近で貴重な自然環境であることに着目し,樹冠面積及び山地林からの距離が,神社林の林床春植物に与える主な環境要因と考えられることを論理的かつ分かりやすく分析,表現されていました。また,研究室で継続的に取り組んでいる函館市周辺地域の調査データを土台とし,理論の厚みが感じられたことも評価されました。
荒 洸太朗(北海道教育大学函館校教育学部国際地域学科),小野寺 悠,河上 康子,村上 健太郎
「函館市周辺の海浜における海岸性甲虫の種組成・種多様性に影響する環境要因」
函館市周辺の海浜における海岸性甲虫の種組成・種多様性についての研究であり,汀線という,環境推移帯の保全に資する観点から重要な視点と思われます。また,漂着物との関係,さらには自然要素だけではなく管理者の清掃という社会的な要因について,地道なデータ取得に基づいて見出され,発表テーマの独創性と結論に至る論理の流れが感じられました。発表後の質疑応答も的確で明快な対応であったことも含め評価されました。
・ポスター発表奨励賞(1件)
戸舘 未紗(札幌市立大学デザイン学部)
「多様化する価値観に対応する新しい供養方法:自然葬地の提案」
優秀賞と比較すると,残念ながらまだ十分な検討がなされていないのは否めませんが,同様の研究がある中で,場所にこだわり,そこでの埋葬方法を語りたい気持ちが伝わり,他と比較して着眼点が優れていると評価されました。今後,その場所を選んだ過程や他の自然葬との比較や分析を含め,研究の深化が期待されます。