雲山 一葉(北海道教育大学函館校教育学部国際地域学科)ほか
要旨:都市の生物多様性保全は全世界的な喫緊の課題である。先行研究では街路樹空間(植枡)においても多くの野生植物が記録され、都市における植物の種多様性に貢献していると考えられているが、研究事例は少ない。そこで、函館市において、街路樹空間が野生植物の生育地として活用可能かについて検討することを目的とした研究を行った。函館市の道路脇の街路樹空間を調査し、外部から移入・定着した木本植物の種名、被度、植枡サイズや位置を野外調査で記録し、定着種のリスト作成を行った。今後は、緑地からの距離や植栽樹種、管理方法などの違いから街路樹空間に移入・定着可能な最適条件を明らかにするための分析を行う予定である。
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街路樹の植栽枡が植物種の生物多様性に貢献しているか評価した興味深い、研究だと感じました。以下、3点質問があります。
①木本植物とつる性植物に限定して調査を行っておりますが、帰化植物や園芸植物などの移入種があれば教えてください。
②植栽枡の植栽種と出現種との関係はケヤキ以外にもありましたでしょうか?
③今回の解析では地域全体を評価しているとおもいます。各植栽枡の種数や被度は周辺の環境に影響を受けているとおもわれますが、わかる範囲で傾向などがあれば教えてください。
中田様
コメントありがとうございます。
質問についてお答えします。
①園芸種はライラック、ムクゲ、ハマナス、バラ科園芸種(種名不明)が出現回数1回でした。
今回の調査では帰化植物であるかどうかは街路樹空間の種多様性保全にあまり関係がないと判断し、調べるに至りませんでしたが、今後追加で調べる可能性もあります。
②ケヤキ以外にも植栽種と出現種との関係は見られましたが、出現回数が少なく表に載せきれませんでした。街路樹の高木や近くの緑地から植枡に移入・定着した種はサクラ13回、ナナカマド10回、イタヤカエデ6回、ハリエンジュ1回出現していました。
③今回のポスターでは予備調査の結果、低木・高木が植栽されている植枡のみを調査対象としているため、低木の下に移入・定着できる空間があり、かつ剪定を免れることができる状況であったため、落葉広葉樹の種数が多くなったと考えたれます。これらは被度としては高くはなりませんでした。
また、低木に絡まるようにして生育しているつる性木本はある特定の種の出現回数が多く、被度は高くなりました。
今後、緑地からの距離との関係について調べようと考えていますが、植物には散布型があり、単純に考えれば、距離が離れると植枡に移入・定着する種は少なくなるのではないかと思います。今回の調査では学校の周りにケヤキが植えられており、真横の街路樹空間にはケヤキの未生が多く見られました。
興味深い調査報告ありがとうございます。
植樹ますは道路管理者が管理することはまれと思われます(除草以外)が、沿道の住民が許可を得て(もしくは得ずに)草花等を植えている場合があります。そのような実態は調査区にはありましたか?あったとすれば、野生種の生育場所確保の観点からはマイナスと思われますか?
大田様
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、住民が植えたであろう植物が植枡に移入しているという実態はいくつか確認されました。ただし、今回の調査では低木と高木が植栽されている植枡のみを対象としているため、住民が草花を意図的に植えている思われる植枡は対象外としています。
住民が意図的に草花を植えている植枡には草本植物も見られたことから、それらが植えられていることで野生種の生育場所確保にマイナスになっているとは言えないと考えています。
エゾエノキをはじめ出現種の確認は興味深いものがあります。リストを見ると鳥類による散布を結論として導いたことが頷けますが、北海道のRDBの希少種であるエゾエノキについては、周辺地域での植生地や自生地の確認がなされると動物散布との相関の糸口になるかと思いました。
エゾエノキの母樹確認調査(追加調査)などの予定(発展的研究)などがありましたら教えてください。
福原様
コメントありがとうございます。
今回の調査では街路樹空間の種多様性保全について調べているため、希少種の母樹確認調査等の追加調査は行う予定はございません。
しかし、北海道RDBに記載されるような希少種が街路樹空間で確認されたことは大変今日に深いことであると考えております。
街路樹空間の機能を新たに考える興味深い研究だと思いました。
植栽桝が設置されている環境(繁華街、住宅地、郊外など)と移入種に何か相関は見いだせるでしょうか?
篠宮さま
コメントありがとうございます。
今後はQGISで植栽桝と緑地からの距離など測定する予定です。種子散布型によって種子を散布する距離が異なりますので、結果的に緑地からの距離と移入種の相関が見られるのではないかと考えています。現時点では、QGISでの解析しか考えていなかったため、距離以外の要因と移入種の相関は確認出来ないです。しかし、予想としましては剪定の強さや種子を散布する動物の量が変わる事で相関が見られると予想します。
植枡に出現した木本類、大変興味深い結果でした。一方、植栽した木本と出現した木本は通常の植枡の大きさを考えると、将来的には切らねばならないと思いますが、木本類の多様性を保全する空間として植枡は適切と言えるでしょうか?それとも、十分、生育できる空間が確保されている場所であったということでしょうか?
松島様
コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、街路樹は選定され、侵入種までも切られてしまう可能性があると思います。しかし、今回の調査で多くの種が街路樹空間に移入・定着しているということが言えるのであれば、植物種の多様性保全をするという前提で植枡を剪定すれば、植枡が多様性保全の空間として適切になり得ると考えております。