来田 玲子(札幌市立大学デザイン学部)
要旨:札幌市南区に位置する札幌市⽴⼤学の森は、北海道の在来植⽣で構成される豊かな美しい森である。その森に遊歩道「憶えゆく森−⼼は想う、⾝体は感じる−」を提案したい。この遊歩道のコンセプトは、記憶である。記憶には、時の流れによって⽣じる記憶と感覚・感情によって⽣じる記憶があると私は考えた。時の流れによって⽣じる記憶のエリアは、⼆つの広場とメイン通路に広がる。 各場所に時に由来した題名がつけられ、題名に基づいた展⽰物の観覧や体験ができる。そして、感覚・感情によって⽣じる記憶のエリアは、四つの通路に分岐している。それぞれの通路は「喜怒哀楽」、「視覚、聴覚、嗅覚、触覚」のいずれかを表す。この⼆つのエリアによって記憶を呼び、⾃⾝、そして、森を再認識させる遊歩道となっている。
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カラフルできれい。反面、具体的な全体構成がわからない。
コメントありがとうございます。
説明が不足していた点を補足させていただきます。
まず、対象敷地と提案する狙いについてです。この遊歩道は、敷地を札幌市立大学の森に設定しています。隣には、彫刻などのアート作品が野外に展示されている札幌芸術の森野外美術館があります。この地域一帯は芸術の森とされ、四季折々に美しい表情を見せ、また、多くの動植物が生息・生育する北国の森です。提案する遊歩道によって、対象敷地である札幌市立大学芸術の森と札幌芸術の森野外美術館を一体的な地域の芸術拠点とし、学生、地域の方々、観光客に提供する狙いがあります。
次に、どういった課題の元、この遊歩道を提案したのかという点です。三つ課題がありました。
一つ目は、前記の野外美術館との連動性を持った遊歩道にするため、アート作品を展示することという課題です。野外美術館では「見る」・「知る」といった展示が行われていると分析したため、私が提案する遊歩道では、「想う」・「感じる」という能動的な体験ができる展示を目指しました。
二つ目は、散策路を歩くことで変化するシークエンス景観を効果的に取り入れたデザインとするという課題です。この課題に関しては、5つの通路、2つの広場、橋といった様々なエリアに、その景観に適した作品・行動をデザインすることで叶えました。
三つ目は、札幌市立大学の森の自然資源(地形、植生など)と四季の変化を生かした計画・設計提案を行うことという課題です。通路「怒りが視せない」では、坂になっている地形を活かした体験を提案しています。また、高低差を利用し、メイン通路「IMA」と広場「KAKO」を繋ぐ眺望の良い橋を設けました。四季の変化は、「喜怒哀楽」と「五感」をテーマにした四つの通路にそれぞれが一番魅力的となる季節を設定しています。
片桐さんのコメントとも共通しますが、一つ一つのコンテンツについては大変緻密で、こういうものがあったらいいなあとワクワクするような内容だと思いました。一方で、やはり森全体の体験としてどうなるのかということを教えて下さい。例えば、マップにあるそれぞれの通路の結節点がどうなっているか、どう切り替わるか、順路はあるのか、ないとすればどのようにアクセスするのかなどが気になりました。
コメントありがとうございます。
切り替えについては、道の塗装で識別するつもりです。広場とメイン通路「IMA]は、芝生をイメージしています。その他、「喜怒哀楽」のエリアは、それぞれコンクリートで塗装します。その他の部分(小道、出入口、結節点)は、無塗装の土の道をイメージしています。
また、順路は明確には定めておりません。その時の心情などに合わせ、散策者オリジナルの順路で回って欲しいからです。この遊歩道は、エリアを回る順序によって、感じ方が変化する仕組みになっています。例をあげると、時系列を感じたい場合、札幌市立大学の裏庭から入り、広場「KAKO」 →広場「MIRAI」 →メイン通路「IMA」と回ります。落ち込んでいる場合には、左側の既存の道(薄茶の通路)から入り、通路「怒りが視せない」→通路「哀しみを聴く」 →広場「MIRAI」と回り暗い気持ちを前向きにして欲しいです。 どの通路にも、途中で他の通路に移動したり、戻ったりできる小道を設けております。また、遊歩道の出入口は、上部2箇所、下部2箇所(うち一箇所は札幌市立大学の敷地内)の合計4箇所を設けていて、どちらからでもアクセスできるようになっています。
回答ありがとうございます。それぞれ意識されていることがよくわかりました。順路によって感じ方が変化するというのはとても面白そうです。それもあるため、やはりそれぞれの結節点・接続点のつくり方がとても重要だと感じました。バキッとかわるところ、気づいたら変わっているところ、、などそれぞれに工夫ができそうですね。
まるで買ってきた絵本を読んでいるような描画センスの高さに感動しました。KAKO-IMA-MIRAIという時系列に記憶という事象を重ね、札幌市立大学の森に遊歩道を設けて「喜びは香る」「楽しさに触れる」「怒りが視せない」「哀しみを聴く」で体現するストーリー性も興味深い。
ガラスドームの中の苗木やシャボン玉に混ぜる草花などは、実際に私立大学の森に存在する植物名を盛り込むと、メルヘンとリアルが融合してより深みが増すと思います。
ポスター作製にあたり、現地に脚を運んで森を憶えたのだと察しますが、大学の森で受けた印象的なインパクトがありましたら教えてください。
コメント、ありがとうございます。
印象に残っていることは、散歩したくなる森だということです。
私の出身は、本州の鳥取です。鳥取の森は、人工的に植えられた杉が多くを占めます。そのため、色のトーンがなんとなく薄暗い印象です。また、勾配が急なため、森に入ることは登山といった場合に限られます。「薄暗く、湿っている、登山」というのが、これまでの森のイメージでした。
しかし、大学の森を訪れると、印象が異なりました。なんとなく、「明るく、さらっ」としていたのです。白樺の幹や葉の色味が明るいことや広葉樹の落ち葉が地面を覆っていることなどがその印象を作っているのかなと考えています。また、四季の変化もよく感じられます。トドマツなどの針葉樹もきれいに紅葉しますし、冬は葉の無い木が増えていきます。この四季の変化の感じやすさは、大学の森が古来からの原生林ではなく、農地開拓等による人の手が入った二次林が主体で多様な植生を展開したことが理由に挙げられます。勾配も比較的緩やかで、歩きやすく、通学のついでにちょっと散歩したいと思わせてくれました。
軽やかな雰囲気は、北海道の気候が生み出した森だからこそです。また、日々感じる四季の変化は、多様な植生の大学の森だからです。この散歩したくなる森は、遊歩道に適した環境だと思います。
来田様
北海道大学農学部花卉緑地計画学研究室3年の北沢一樹と申します。
素晴らしい作品をありがとうございました。
感想を述べさせていただきます。
ポスターですが、
とてもきれいで、見る人の心を引き付けるものだなと
思いました。
また、テーマに関しましても、
私たち人間誰もが持つ喜怒哀楽という感情に着目された点が、
身近にアイディアが山ほど転がっているのだなということを実感させていただきました。
ポスターのデザインやテーマにつきまして、
たくさんのことを学ばせていただきました。
重ねてになりますが、素晴らしい作品ありがとうございました。
ご感想、ありがとうございます。
北沢さんのお言葉、とても励みになりました。痛み入ります。
今後とも精進してまいります。