「北の造園遺産認定事業」について
2008年4月に発行された俵浩三(ひろみ)先生の『北海道・緑の環境史』(北海道大学出版会、2008)には、2 都市公園の事始め の中に、「公園の温故知新に学ぶこと」という項があり、北海道では本州以南の地域のように歴史的遺産を公園化することができなかったことから、町づくりの初期の段階から公園が計画的に意識されていたこと。函館公園のように、日本の公園の歴史の中で空前絶後というべき大規模な住民主導型の整備が実現されたこと、などを例と挙げ、「私たちは、町づくり百年の大計を胸に抱いて行動した先人の例に学び、市民が声を出し、行政に働きかけ、そして市民にもできる役割を分担することが重要なのではないだろうか。」と指摘している。
明治12年に市民の手によって完成した函館公園は、今もなお函館市民の憩いの場として利用されているが、明治14年の明治天皇行幸に合わせ、開拓使のお雇い外国人ルイス・ベーマーの指導により、札幌農学校の温室で育成した西洋花卉をふんだんに使用して元祖ガーデニング空間として整備された豊平館や偕楽園の庭園は既に失われ、そんな空間があったことすら誰も知らない状況となっている。
ちょうど百年前、当時わが国の公園プランナーの先駆者である長岡安平氏に、札幌の中心部の歴史的な公園である中島・円山・そして大通公園の設計を依頼し、整備に着工している。しかし、開拓当初からこれらの場所がどのように位置づけられ、その時既に公園空間として活用されてきたのかはほとんど知られていないのである。
先人達が造り上げてきた公園や緑の財産は、日ごろ造園に関わる私たちにとっても、その歴史や意義、特徴をしっかりと把握することが大切であるだけでなく、その内容を広く市民に知っていただく努力をしていかないことには、本当の意味での市民の財産にはなり得ない。
そこで北海道支部では、教育機関や行政関係者、関係業界の人間だけでなく、広く市民にもこれらの遺産の再発見に関われる仕組みづくりを検討し、資料の発掘や、現地見学等を通じてそれぞれの役割を見直すきっかけとしていきたいと考えている。
具体的な進め方は今後の検討によるが、既に先行して進められている関東支部の取り組みを参考にしながら、北海道独自の歴史性を踏まえた、広がりと深みのあるものにしていきたい。
「北の造園遺産」一覧
■第1次認定遺産(2010)
■第2次認定遺産(2011)■第3次認定遺産(2012)■第4次認定遺産(2013)■第5次認定遺産(2014)■第6次認定遺産(2015)■第7次認定遺産(2016)※該当無し ■第8次認定遺産(2017)■第9次認定遺産(2018)※該当無し
■第10次認定遺産(2019)■第11次認定遺産(2020)■第12次認定遺産(2021)■第13次認定遺産(2022)■第14次認定遺産(2023) |