222路面間隙に海崖生植物群落は成立するか?

池田 瞬哉北海道教育大学函館校教育学部国際地域学科)ほか

要旨:人工構造物である路面間隙が海崖生植物の生育地となり得るかを明らかにすることを目的とした研究を行った。調査地域は北海道南部の国道228号線沿い(松前郡松前町内約10㎞の区間)で、20217月に当地域の34地点(長さ10m)で路面間隙に生育する植物を線状被度法により調査した。その結果、2150種の維管束植物を記録した。ラセイタソウ、ハマオトコヨモギ、ハマボッスなどの海崖生植物が記録された。海崖地に近い地点の多くで海崖生植物が多く記録され、海崖地から距離の離れた地点では海崖生植物は記録されなかった。以上より、路面間隙は海崖生植物の生育地として機能しているが、海崖からの距離には限界があると考えられた。

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222路面間隙に海崖生植物群落は成立するか?」への17件のフィードバック

  1. 海岸という特異な環境に生育する植物を扱った興味深い研究だとおもいます。以下、3点質問させてください。

    ①海岸近くと5km以上離れた地点で調査をされていますが、5kmにした根拠となる文献などはありますでしょうか?どこに閾値があるのか気になります。

    ②路面間隙の構造や材料の違いなどは考慮されておりますでしょうか?

    ③種数や出現頻度を決める環境要因がわかれば教えてください。

    • ご質問ありがとうございます。現在わかっている範囲で回答させていただきます。

      ①調査計画段階で境を5kmに設定してはいませんでした。海崖近くの調査地点の対照区として近くに海崖のない路面間隙を設定し、現地調査後に各調査地点から崖までの距離を調べたところ、結果的に対照区は5km以上離れていました。

      ②今回の調査では材料の違いについて考慮していませんでした。しかし構造については、各路面間隙の幅と深さを調査し、記録してあるので今後海崖生植物の生育に間隙のサイズが影響を与えうるか分析しようと考えています。

      ③ポスターには載せていませんでしたが、只今分析したところ、海崖生植物の種数と海崖からの距離について、有意な負の相関(p<0.05)がみられました。よって、今回の調査において海崖生植物は崖から離れるほど種数が減っていくといえます。

  2. 貴重な調査報告ありがとうございます。
    写真のような道路舗装体と縁石との間隙や舗装に生じたクラックに植物が生育することはよく見かけます。道路を維持管理する管理者から見ると、このような現象は、舗装や路盤、路床を損傷する原因になることや、歩道であれば歩きやすさ、また都市景観への影響などから抑止すべき現象、もしくは除草等により除去すべき現象と捉えられると思います。実際には十分な維持管理が出来ず、広範囲に生じています。
    本研究で着目の観点とインフラの維持管理との関係はどのように考えますか?

    •  ご質問ありがとうございます。
       一般に、路面間隙に生育する雑草はマイナスな影響が多く、除去すべき対象であると思われます。しかし、今回私たちが取り上げた海崖生植物は他の海岸生種に比べて分布域が狭く、地域の固有種も多いことが特徴です。そのような海崖生植物(レッドデータ種含む)のハビタットとしての路面間隙は保全の観点から重要なものであるといえます。今回の調査によって、海崖から近い距離に在来種の海崖生植物が多く見られ、海崖から離れるほど海崖生植物は減り、外来種が増えているということがわかりました。このことから、在来の海崖生植物の保全を考えた場合、海崖から近い距離にある路面間隙内に生育している植物については残されるべきものであると考えます。都市部の路面間隙に生育するものについては、ご指摘にあったような悪影響を及ぼすことが考えられるため、取り除いていくべきかもしれません。私たちはそれぞれの地域の生物多様性の保全と人間の社会生活とのバランスを考え、適切に対処していくことが重要であると考えます。

      • ご見解ありがとうございます。
        海岸から近い距離にある路面間隙内に生育している植物は保全対象と考えると言うことですが、なぜこのような環境(通常考えると厳しい環境)に生育するのか、その要因や条件(水分環境?乾燥と路面排水?塩分?)を検討して、在来種の保護等のためにはより適した生育場所を保全もしくは創出してことの方が重要と考えますが如何でしょうか?

  3. ご意見ありがとうございます。
    より適した生育場所を保全、創出していくことは重要であると思います。それらと並行して、既にある路面間隙を維持することで海崖生植物の保全に繋がるのであれば、十分に意味はあると考えます。

  4. 海崖植物という分野を初めて知った、地味なだけに先駆的な研究?。発想が独創的。

  5. とてもユニークな着想と調査だと思いました。毎年渡島大島に通っているので、この区間はいつも通っておりますが、こんなすき間に海崖植物が育っていたとは驚きでした。
    コモチレンゲはお雇い外国人のルイス・ベーマーが採取したものがタイプになっているので、昔から興味があり、現在自宅でも栽培しています。親株がよほど大きく育たないと開花しないため、種子散布する機会はほとんどないと思います。代わりに無数の子株を作り、(今年は暑かったせいか孫株まで作って)それが落下して転がる範囲が散布区域となるため、移動距離はわずかです。

    • コメントありがとうございます。
      私たちも、新たに道路を作る際に安全に配慮しながらも、意図的に間隙を設けることができれば、海崖生植物の生育場所を確保できるのではないかと考えていました。ポスターに載せることはできませんでしたが、間隙の幅と深さも併せて記録しておりますので、今後の分析で海崖生植物の出現の構造についてなにか関係性が見つかれば、より適した路面間隙の構造を意図的につくりだすことできるのではないかと考えています。

    • 失礼いたしました。返信内容を間違えてしまいました。

      コメントありがとうございます。
      コモチレンゲの生育域の狭さにはそのような原因があったのですね。勉強になりました。今後の研究の参考にさせていただきます。

  6. 非常に興味深い着眼点の研究です。道路管理者にとっては道路間隙は補修対象になりますが、植物生態学的には貴重種のハビタットになりうるのですね。
    ポスターを拝見して東日本大震災後の海岸集落地跡の植生を思い出しました。津波襲来前はアスファルトの道路と住宅地であった場所が、津波後に一面海浜植物で覆われました。
    海崖付近の道路間隙で確認されたように環境を整えればエコトーンが広がりハビタットが成立するのであれば、道路維持の中で間隙が補修されても、例えば歩車道分離縁石の歩道側に僅かな空間でも海浜植物の進入帯を設ける事で植物の保全環境が確保できるなどの道路構造への提案はできないでしょうか。

    • コメントありがとうございます。
      私たちも新たに道路を作る際に、安全に配慮しながらも意図的に間隙を設けることができれば、海崖生植物の生育場所を確保できるのではないかと考えていました。ポスターに載せることはできませんでしたが、間隙の幅と深さも併せて記録しておりますので、今後の分析で海崖生植物の出現と間隙の構造についてなにか関係性が見つかれば、より適した路面間隙の構造を意図的につくりだすことができるのではないかと考えています。

  7. 海崖との関係を考察されておられましたが、これは道路より陸側の地形を指しているものと拝察いたしました。
    質問は、海側の地形の影響は考慮されておりますでしょうか?場所によってはコンクリート護岸だけであったり、浜が発達していたりと海側からの影響もありそうに思いました。

    • コメントありがとうございます。
      本研究では、移入源とみられる海崖地からの距離についてのみ考察を行いましたが、ご指摘の通り、周囲の環境が路面間隙への侵入に影響を与えている可能性はあるかもしれません。貴重なご意見ありがとうございます。

  8. 北海道大学農学部3年の上杉と申します。

    路面間隙という、普通に過ごしていると気に留めないような場所を対象としていたり、そのような場所に希少種が見られたという結果になっていたりと、とても興味を惹かれました。

    基礎的な質問になってしまうのですが、はじめにあった「路面間隙と海岸生植物の生育環境との共通点」というのは、具体的にはどのような所なのでしょうか。

    • コメントありがとうございます。
      海崖生植物の生育環境は海沿いの崖地で、岩上やその隙間となっています。このように硬質な基盤に囲まれ、狭く、乾燥を含めた水分によるストレスを受けやすいという特徴が路面間隙に酷似していると考えました。

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